神域守護砦―――。
神界の魔物等を討ち果たさんと、多くの兵達が集った領域。
今や、元凶を討ち果たし、神界の底を攻略し尽くし、
千年戦争の終わりを夢見た場所は、神界攻略部隊の解散と共に一度打ち捨てられ、無人の廃墟と化していた。

しかし、その場所は暫く後に新たな役目を果たすべく、再び再活用されていた。
そして当時、解散した大勢のメンバーの内、巫女と龍を討伐せし者、そして一部の兵を再び呼び寄せた。

任を解かれ、それぞれ故郷に戻り、平穏を取り戻した筈の彼らは、
次なる脅威に備え、ある計画の参加者に加えられた。

その計画とは、神界を攻略した我々が、次に別なる異界により侵略される事。
その備えとして、精鋭を集い、唯一無二、比類無き最強の組織を作るという内容だった。

巫女は、彼女から寵愛を受けた兵士は己の潜在能力を解放し、神と同等の強さを獲得させる為、
龍を討伐せし者は、その兵士達を率い、彼等に合う武装を見繕う役目を背負わされた。

彼等は、再び兵を集め、かつては皆に優しかった巫女は、役立たずを斬って捨てる「鬼」となり、
頼り甲斐のあった凄腕の龍師は、沈静化した筈の地獄に再び潜り、神器を見繕う「道具」と成り果てたのだった。

――――――――――
そして、多少の年月が過ぎ、
神域守護砦にて。

「よう、ハヤブサ。息災か?」
「おぉ…ラセフトか。ハハッ、元気だ……と、言いたいんだがな」
ハヤブサ、ラセフト。この二人はかつての神界攻略部隊の一員で、現在は新兵の教育に当たっている。
ハヤブサは、神界攻略部隊の筆頭メンバーで、その強靭な体力と脚力によって多くの危機を潜り抜けた猛者の一人だった。
解散後は飛脚(小荷物等の送達等の仕事)に従事していた。

ラセフトは、神界攻略部隊の射手部隊エースで、正確且つ素早い射撃能力で戦場を切り開いた。
解散後は故郷アヴァリスで弓兵部隊の訓練官を務めていた。

その二人は、それぞれ別の仕事を任されていた。
ハヤブサは、他一部の兵士と共に”装備無し”で新兵の戦闘訓練に当たる事だった。
幾ら彼等が未熟とはいえ、我々を何度も打ち倒す度に大きく成長し、あっという間に精鋭になってしまう。
そして強くなる度に、彼等の攻撃も苛烈になり、自慢の脚を以てしても避ける事すら儘ならず、
次第に簡単にダウンする羽目になった。
一つ一つの攻撃が徐々に重くなり、次第に一撃でダウンさせられる様になる。
これを毎日毎日繰り返させられていた。
幾ら治療を受けれるとはいえ、日々、彼らの攻撃を受け続ける度に体が悲鳴を上げ続け、精神は常に摩耗し続けていた。
その上、彼よりも技量や才に優れた者が増え始め、今まで味わうはずの無かった”劣等感”を感じ始めていたのだった。

一方でラセフトは、神器収集者と化した龍師と共に部隊を編成し、
無限に変異し続ける”神界”を何度も何度も潜り続ける日々を送っていた。
毎日毎日潜り続け、ハズレばかりの”ゴミ”を漁り続け、思い通りにならない苦痛と、
魔物との戦いが続き、こちらも大きく精神を摩耗していたのだった。

「正直な、俺この部隊に配属されてな、最初は楽しかったよ。
一つの神界に潜る度に大勢の凶悪な魔物共を躱しながら斬り捨て、
一発の被弾が命取りになる龍との戦いにおいても躱して斬り捨て、
叩けば叩く程無駄に増えまくるスライム共も切り伏せ続けて、
巫女や龍師さんに何度も褒められて、付け上がって、「俺が最強だ」って、
何度も優越感を感じて……あぁ、楽しかったよ。あの日々は」

ハヤブサは早口でまくし立てる様に喋り、一つため息をつく。

「……でもな、次なる脅威の為に備えるって言ってもな、
俺がサンドバッグ代わりにされるのはもうウンザリなんだ…分かってくれるか?ラセフトよ」
「……」

ラセフトは、哀れみの目を一瞬ハヤブサに向け掛け、目頭を押さえる。

「知ってるか?ここ最近入った奴等?
神界討伐時代の兵士達とは比べ物にならない才能を持った兵士達ばかりが集まって来るんだぞ?
特にここ最近、一部別次元との交流試合で特に出場してるカースフォルムって奴居るだろ?
アイツな、俺よりも圧倒的に戦うのが上手いんだよ。
ふざけるなよ、俺が今まで神界攻略部隊のエースだと思ってたのに、なんで今更俺以上の化け物が来るんだよ。
その上、女兵士の方は堅実に刺突してくる上に、俺と同等の回避能力持ってる奴が居るんだぞ。
しかも最近は”スイカ頭被った変人”も来るし、
”〇ンノ・ミホーク”とかいう東洋人だか西洋人だか分からん名前してる上に装備変更する度に「あぁ^いいっすねぇ(ウンッ)」とか呟く変人とか居るし、
なんなんだここ、いつの間に変人収容施設になったんだ!?馬鹿にするなってんだ!!」
「…お、おぉぅ…」
「…まぁ、でも時折胸のでけぇ、低身長の美人も来たりした事もあるし、そこはすげぇ目の保養になったんだけどよ。
…角生えてたけどよ」

新兵の調教に愚痴を呟き続けるハヤブサは、既に喋る速度までハヤブサと化していた。
今までは、神界攻略部隊の時はエースだともてはやされ、嬉しさ余って調子乗り放題の時位しか早口にならなかった彼は、
その言葉から滲み出てくる怒りと不安と悲愴と絶望によって、更に悪化していたのだった。

「……スマン、見苦しい所を見せ過ぎた。本当はここまで荒れたくは無かったんだが……お前はどうだ?」
「俺か?あぁ…………………………はぁ、今日も収穫無しだよ」

ラセフトは、龍師と何度も凶悪な魔物が潜み、無限に変異し続ける”神界”に潜り続けていたが、
休みなく何度もダンジョン内を引きずり回され、成果の無い果て無き戦いを続けさせられていた。
しかし、そんな彼は一つ、朗報が舞い込んでいた。

「…へぇ、訓練を終えた新兵が、お前の代替わりとして…」
「あぁ、恐らくだが、次の潜入で最後だ……」

ラセフトは、申し訳なさそうにそっぽを向いた。

「…気にするなよ。寧ろ何というかこう、卒業おめでとうと言った感じじゃないか」
「……複雑だけどな。お前に申し訳ないし、俺はやっぱり使い捨てに過ぎなかったんだなとも…」
「……」
「……」

二人はそれから無言になり、俯き続ける。
配給として貰った肉は喉を通らず、乾いている筈の喉は水分を求めず、
どうしようもない悪循環が産んだ空気が、彼らの欲求を押し潰していく。
暫くして、ハヤブサが呼び出された。
再び押し付けられた使命と共に”新兵のサンドバッグ”にされるという恐怖を抑え、力なくゆっくり立ち上がる。

「…じゃあ……多分、もう会う事も無いけど……元気でな…」
「……あぁ、すまない…」

ラセフトは、唯彼を見送る事しか出来なかった。
再び、血みどろで魑魅魍魎の戦場に駆り出される彼に掛けてやれる言葉は無く、
寧ろ自分が先にこの辛い”作業”から解放される事に喜びと罪悪感を感じていたのだった。

ヴァスタークロウズ3外伝 ~兵も希望も全て夢の跡~ 完
~ANC-BC.1600年後半頃~